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別注本染め手拭・注染手拭の作り方/染め方
まずはどのようにして手拭いが作られてゆくか見てみます。染めるだけかと思いきや染める工程は手拭い作成のごく一部で、それ以外にも多くの工程があります。
折付注染
現在、手拭染に用いられる注染は、生地を手拭の長さに折りたたみながら糊置きをしたものを染台に写し、上から染料を注ぎ込むことによって一度に数十枚を染める方法で、折付注染ともいわれます。糊置きに使用する型紙の大きさが、手拭いサイズの中型であるため、折付中形、注染中形、手拭中形など、様々な名称があります。
この染色法をさして注染という呼称が一般化したのは昭和17年以降のことで、それまでは注ぎ込み染、あるいは注ぎ染と呼ばれていたようです。
折付注染がいつどこで考案され、普及したかについては、確かな史料がなく、推定してゆくほかありませんが、明治のかなり早い時に開発され、明治20年頃には普及していたと考えられています。
折付注染の技法工程
手拭染は、その工程のかなりの部分が機械化されたとはいえ、基本的にはほとんど手工の職人芸にたよっています。以下は一般的な手拭染工程です。
- ⓪まずは版作成
- 手拭いの作成には必ず版の作成が必要となります。版は職人が手作業にて型紙をほって行きます。概ね1つの型を彫り終えるのに1週間程度を要します。
- ①生地準備
- 晒木綿の疋をタタミから丸巻に直す。巻き取り機械にかけられるとシワもとれる。晒木綿の品質は、岡(30番手)を最高とし、文(20番手)を次としている。
- ②型置き-板場(いたば)-糊付け
- 晒し上りの生地を糊付台の上に敷き、枠に固定した伊勢形紙(型)を生地の上に乗せ、上から木べらで左右へ1回づつ防染糊をひき、1枚1枚積み重ねて、糊つけを行います。糊はふのりにベントナイトを混ぜたものを使用。
- 糊つけを1回行うごとに生地の折りたたみを繰り返すので、横から見て糊と生地がミルフィーユ状になります。それを3から4反つみ重ねて糊付け台からおろします。
- 生地の折り返しには相当の技術を必要とし、細かい柄ほど念入りにおこなわなければなりません。
- ③そそぎ染め-壺人(つぼんど)-
- 板場で型置きされた生地を染代の上に置き、染料のこぼれを防ぐため、模様に沿って糊を絞り出し、模様のふちに土手を作る。生地の上から糊の土手の内、あるいは外に染料を流し込み、同時に機械で吸い込ませて染料を下まで通す。何度も染料を吸い込ませてから、さらに生地を反転させ同じ方法で再度染めます。このように生地の表と裏から二度染色するのが「そそぎ染め」最大の特徴です。
- 手作業中心で長年にわたり培われてきた、職人達の優れた技術と感覚で、ほかの染色方法では味わうことのできない独特の色合い、微妙なタッチや立体感等が表現出来ます。
- ③水洗い-浜(はま)-
- 染め終わると型置きの時の糊と上かぶりした余分な染料を工場内に引き込まれた工業用水を使用して機械で十分に洗い落します。この作業に携わる職人を浜方(はまかた)といいます。
- ④脱水
- 充分水洗いの終わった生地を遠心分離機(脱水機)によって完全に脱水し、水気を飛ばす。
- ⑤乾燥-立干し(たてほし)-
- 脱水した生地をダテと呼ばれる高所へ登って天日乾燥、もしくは室内の乾燥設備で立干しします。
- これを少ししめり気があるうちにダテから降ろす
- ⑥タイコ巻き
- 干した生地をミシンをかけてつなぎ、機械にかけて1巻に巻く。タイコに巻くという。
- ⑦整理
- もとのタタミ仕上げに直し、10枚づつ2つ折りにしてローラーに通す。これで、のり付したようにピンと仕上がる。以前はこの工程は打ち屋と呼ばれる別の作業所が引き受けていた。砧(きぬた)打ちでつやを出し、しわを取って仕上げるのであるが大変な作業であった。
- ⑧裁断
- 人の手によって1枚1枚丁寧に裁断。手拭いの完成
注染手拭いの取り扱いについて
手拭いのお手入れ
- 使い始めの洗い方
- 注染手拭は色落ちするものです。使い始めて2~3回は、ほかの洗濯物と分けて手洗いしましょう。
- ぬるま湯でジャブジャブ。かるーく絞って干します。ここでシワを伸ばすとアイロン要らずです。
- 生地のほつれ
- 手拭いは一般的に端は切りっぱなしです。雑菌がたまりにくく、乾きやすいという利点があります。
- 徐々にほつれてゆきますので、余分な糸をカットしましょう。フリンジ状になって止まります。
- 使い込むと・・・
- 注染手拭いは成長するものです。注染本染めの手拭は、洋服に例えるとビンテージジーンズ。使い込むほどに色落ちと風合い、馴染む柔らかさが特徴です。大切に愛でてあげましょう。
注意点
保管
手拭いは染料で染められています。濡れたままで放置すると色が滲んだり色移りします。また、摩擦によりほかのものに色移りしますので淡色のものとのご使用は避けて下さい。
長期間保管する場合には湿気に注意してください。特に袋に入れたままの保管は避けて下さい。若干の湿気により生地が弱くなります。
洗濯時
洗濯時、色落ちすることがありますので、薄い色のものとは分けて洗って下さい。塩素系漂白剤は使用しないで下さい。
その他
- スクリーン染め
- 現在では水を使わず、きれいに染められる「スクリーン染」が開発され、水を使う従来の注染はやがて消え去る運命かもしれません。しかし、注染の味わいを熟知しているものにとっては、いくらきれいに染まっても、スクリーン染の手拭、浴衣では満足できないことは確かでしょう。
- 明治の手拭い
- 手拭は、名もない職人によって下絵が描かれ、名も残らぬ職人の手で染められ、高級なものでもわずか30銭(普通の手拭は10銭程度)で売られていた、まったくの日用品でした。これこそ真の庶民芸術と言えるのではないでしょうか。
※この項は「庶民の芸術 手拭 浮田コレクション(染織と生活社出版)」より抜粋・加筆したものです。